Alien ^3
BSでエイリアン一挙放送なんてやってるんでつい見てしまった。で、歳を取ると映画の見方が変わるもんだなと思った。しっとり古典の第一作、どんぱちバイオレンスの第二作、当時少年だった私はどちらも大いに楽しんだ。そして第三作目、なんか雰囲気は良くて抗いがたいものがあるが、噺がどーも良く分からん、と、好きになりたいけど好きになれねーな、みたいな。そんなもんでしたね。
そらそーだわ、中学生に理解できる映画ではなかった。ただそれだけのことでも無いことが、今回見直してみて判明した。そもそも訳を付けとる人が理解してない。そんな糞字幕で噺が理解できるわけ無い。今回のスターチャンネルでの放送、戸田奈津子を超える糞っぷり、見てみましょう。
会話が理解できない糞っぷり
字幕が酷くて見るのやめるレベル、つか止めた。で、今これ書いてる。ニュートの解剖、食堂での一幕の後、チャールズ・ダンス演じる医官とシガニー・ウィーバー演じるリプリーが身の上話をするシーン。
[Ripley] How did you get this wonderful assignment?
[Clemens] How do you like your new haircut?
[Ripley] It's okay.
「こんなクソみたいな仕事、志願したの?」と興味半分、ディスり半分で訊いてるわけよ。で、この小娘め、んなわけねーだろ、と質問に質問で返答する。「新しいヘアスタイルは気に入ったかい?」と。気に入るわけねえわな、剃られてんだもん。「しょうがないものね。」と返事しながら、医官の身の上を自分に重ねてんだよ。新しいヘアカットや靴、帽子などを職や立場の比喩とするのは欧米の会話では散見される。そうであることを知らずとも、この短い会話の後にやや長めの無言のシーンがあることで、先ほどの会話の反芻をやってる感は伝わってくるはずだ。この訳をつけた奴は英語を文字通り理解はできているが、会話を理解できていない。馬鹿だ、周囲にいても関わりたくないタイプ。
この後も突然「私に惹かれてるの?」と尋ねるリプリーに対して「どういう意味だ?」「そういう意味よ。」という会話が有る。これはさっきの職業志願の会話のリプライズ。やられっぱなしじゃイヤのリプリーが仕掛けたレトリックだ。それを「セックチュ」と訳しやがった馬鹿、出てこい。アタマ沸いとんのかい。
単語を知らない糞っぷり
誤訳も有るぜ。前後するが、身の上話の前、所長や施設についての会話中、語れば長いしややこしいので、会話の途中で一杯勧めている。
[Clemens] Tincture?
これを「2錠」と訳しやがった馬鹿、やっぱり出てこい。*1
ダブルミーニング、掛詞を訳に落とし込めない低能っぷり
剃髪して食堂に現れたリプリー、性衝動を隠しきれない囚人、リーダー的存在のディロンが信仰の話に重ねて、リプリーに警告しているシーン。
[Dillon] You see, we've got a good place to wait here.
[Dillon] And until now, no temptation.
[Ripley] What are you waiting for?
「な、分かるだろ?なんせ待ち時間はたっぷり有る。」「これまでには無かった誘惑もある。」と語るディロン。生長して信仰を遂げるには誘惑に打ち勝つ意思が大切だと説くと同時に、「お前レイプされちゃうぜ、気ぃつけや。」とも言ってる。これに「一体、何を待ってるの?」と応えるリプリー。信仰のコンテクストでは「キリストの再来的なものを待ってるんでしょ?あたしゃぁ信じませんが」という意味にも取れるし、レイプ警報のコンテクストでは「やれるもんならやってみなさいよ」という意味だ。ダブルミーニングにダブルミーニングで返すクレバーさ、そして鼻っ柱の強さ。このシーンだけでもリプリーのキャラクターがよく表現されている。…筈なのに、この盆暗な字幕のせいで台無し。
作品への敬意が感じられない
上で挙げたシーンはエイリアン登場前の導入部。どうせ皆死ぬんだからテキトーで良くね?的な和訳にゲンナリ。作品への敬意も、映画への愛も、和訳する能力も欠けている方々。ほんっとに辞めて欲しい。
苦情はこの辺までとして
しかし、良い映画だわ、海外でも国内でも評価は別れたと記憶しているが。役者、演技、台詞が絶妙に咬み合っていて良い。
チャールズ・ダンス(イングランド)、ポール・マッギャン(イングランド)、ブライアン・グローバー(イングランド)、ラルフ・ブラウン(イングランド)、ダニー・ウェッブ(イングランド)、ホルト・マッキャラニー(イングランド)、ピート・ポスルスウェイト(イングランド)と、イングランドの名優がズラリ。かの国の大抵の役者さんは俳優学校でガッチリ勉強してるからか、セリフ回しや演技がゴイスー。しかもギャラが安いので制作側もウッハー。
このイングランド勢が労働監獄という雰囲気を、先ず見た目で醸し出す。米人の役者とは明らかに顔つきが違う。歯並びも米人に比べれば悪い。で、喋りで醸し出す。米人にしてみれば馴染みのない、というか異国のアクセント。
まあ、評価が別れるのはしょうがない。待ちに待ったエイリアン新作がこんなだったらひっくり返るわな。
*1:後日吹き替え版で確認したところ、翻訳は石原千麻だった。向いてないから職業替えなさい。